※「ガーメントプリンター」とはTシャツなどのアパレル製品へのプリントを目的とした製品。「テキスタイルプリンター」とは裁断前のロール上の生地へのプリントを目的としたもの(と私は解釈しています。。。)。このブログでは主にガーメントプリンターについての考察です。ただし、実際に使ったことがあるのは、現在松栄シルクで装備している機種、kornit(コーニット)とroq hybrid(ロークハイブリッド)だけなので、使ったことのない機種に関して憶測でモノを言っている部分があると思います。広い心で眺めていただけたらと思います。
前処理剤の主な役割
インクジェットガーメントプリンターの場合、なぜ前処理剤が必要なのか。それはインクが水溶性の液体なので、そのままでは対象物の生地に染み込んでいってしまうからではないか。
一般家庭で使用するようなプリンター用紙と違い、糸を織って構成されている生地は、紙よりも数倍厚みがあり、糸と毛があり、毛細管現象により多くの液体を吸い込む。
噴射され生地に着弾したインクは、周囲に滲みながら染み込んでいく。
インクのドットが滲むことでインク同士が直接混色し濁る。
前処理剤を使用せず生地にプリントした場合、色が沈み、画像がぼんやりした印象になる。これはインクの直接混色による濁りと、生地に染み込むことで生地の表面の糸や毛が目立つことに因るのだと思われる。
多くのプリンターではインク自体に固着成分のあるバインダーが含まれていることが多いので、発色を別にすれば、生地への定着自体は、前処理剤がなくても行われる場合が多い。白インクを使用しない場合で、前処理剤がなくてもプリント可能というのは、このような理由から。
上記のような現象から逆算して考えると、「インクジェットのプリントが生地上で綺麗に表現される」のに必要なこととは、
噴射され、生地に着弾したインクのドットが、滲みを最小限に抑えながら、最適な形状で生地上に配列させられること。そして、生地の糸や毛の物理性に負けないために、出来る限り生地表層に近い位置に留まるようにすること。
このことから、前処理剤の役割とは、生地表層にインクのドットが滲まない、沈まない状態で保持できる層を形成すること、と言うことができる。
ウェットかドライか
前処理剤の使用条件として、2つのタイプがある。
1つはドライタイプ。前処理剤を塗布後、熱による乾燥か、プレスをした状態でプリントするタイプ。
もう1つのウェットタイプは、前処理剤を塗布後に、乾燥やヒートプレスを必要としない、前処理剤で濡れたままの状態でプリントするタイプ。
現在ほとんどのインクジェットガーメントプリンターではドライタイプを採用している。ウェットタイプは今のところコーニットしか聞いたことがない。
それぞれにメリット・デメリットが存在する。
ドライタイプのメリットは、乾燥させることで生地上の前処理剤を一定の状態にすることができる。プレスをすることで、生地表面を平滑にすることができ、平滑な面にプリントすることでより精細なプリント結果を得ることができる。前処理剤自体は乾いているので、プリント後の乾燥が短時間で済む。プリント中にプリントヘッドが生地に接触してしまっても、前処理剤がプリントヘッドへ付着することが少なく、プリントヘッドへのダメージが少ない。
デメリットとしては、乾燥させることで作業工程数が増え、乾燥が終わるまでプリントができないので、プリント開始まで時間を必要とする。生地によって適切な前処理剤の量が変わるが、その量の判別がし辛い。前処理を乾燥させて生地表面にインクの受容層を形成する必要があるため、前処理剤の残留感が多く、気になる場合は後工程で洗いが必要な場合がある。前処理剤により、生地の質感・触り心地が硬くなる。などがある。
ウェットタイプのメリットは、塗布直後からプリントできるため、プリント開始までが短時間で済む。プリントと前処理が一度の乾燥で済む。前処理剤も乾燥後に残る必要がないので乾燥後の前処理剤自体の残留感はほぼない。生地の前処理剤の濡れ具合によって最適な状態が判別できる。前処理剤は乾燥により蒸発していくので、生地への前処理剤の残留感が少なく、触り心地が柔らかい。など。
デメリットは、プリント後は濡れた状態なので、乾燥時間が長く必要なこと。プリント中にプリントヘッドが生地に接触してしまった場合、前処理剤がプリントヘッドに付着し、プリントヘッドのノズルのインクが固まってしまう危険性が大きいこと。前処理剤・インク・プリントヘッド・ソフトウェアを一括して開発する必要があるので、より強力な開発力が必要になること。など。
前処理剤の質感
前処理剤の粘度、ウェットかドライかによって質感が違う。
ハイブリッドのように前処理剤をシルクでプリントする場合、ペースト状である必要があるので前処理剤の厚みがあり、さらに乾燥させることにより、前処理剤の質感が大きく出る。ただし、この前処理剤の厚みと強固で平滑な下地によって精細なプリントが可能になる。
コーニットの場合は前処理剤は透明な液体でほぼ水と同じ粘度である。液体をスプレーで霧状に噴射し、生地を均一に濡らすことで前処理完了。さらにウェットでプリントするため、生地感を損なわずにプリントが可能。
必要な作業工程
インクジェットガーメントプリンターのほとんどが、前処理とプリントが別工程で、プリンターの他に前処理機が必要になる。
前処理とプリントが一体型(内蔵型)になっているのはコーニットだけ(だと思う。roq hybridも厳密にいうと一体型ではない。)。
(最近M&Rからヒートプレス機が一体型となったモデルが発表されて、それはそれで面白い戦略だと。さらにヘッドの隣に小さいヒーターが付いていてプリントしながら乾燥もできる。とのこと。その熱でヘッドのインクが固まったりしないのか心配ですが、このあたりの思い切りの良さが海外メーカーの強み。「何かを捨てて何かに特化する」ということがインクジェットガーメントプリンターには必要なのかも。オールマイティーな方式が存在しない分野であり、メリットデメリットが多いなかで、そのあたりを戦略として思い切って勝負してくるところって素晴らしいと思います。)
1番丁寧な前処理では、従来からのテキスタイルインクジェット捺染と同じような方式で、洗浄→乾燥→前処理剤散布→乾燥→プリント→乾燥→洗浄→乾燥という長い工程を必要とするものもある。
現在主流なのは最初(と最後)の洗浄工程を省略し、製品に直接前処理剤を塗布するところから開始する方式。
別工程のメリットは、先に前処理を終えているので、プリント自体にかかる時間が少ない。など。デメリットは、別の機材が必要で、そのための敷地や設備、人員が必要になる。また機材も手頃なものから大規模なものまであり、それに費やせるリソースによって生産能力が上下する。など。
roq hybridも、シルクの機械とインクジェットの機械を組み合わせて、同一工程でのプリントが可能となっている。
松栄シルクではインクジェット機材の選定条件が、社内での作業性や職人性の感覚から、同一工程で進められるものとしている。
塗布方式
前処理剤の塗布方式も大きく分けて2種類。
スプレー噴射式とシルクプリント式。
スプレー噴射式を採用しているところが多い。シルクプリント式に比べ、装置が比較的簡易にも作成可能で設置面積も小さくて済むことなどが、その理由かもしれない。
(コンシューマー向けなどではローラーで塗り込むタイプの前処理剤もあるらしい。。。)
大規模な前処理機では、コンベヤにTシャツを流すと、その先で前処理剤を噴射し、さらにその先の乾燥機を通って乾燥して出てくる、というように大量に前処理が可能になる。
シルクプリント式は版を作成するなどの手間があるが、デザイン部分のみに前処理を行うので、前処理剤とボディ染料との反応による色変化が起きてしまうような場合でも、前処理剤はプリントされたインクで隠れてしまうため、ほとんど目立つことがない。というメリットがある。
などなど。各メーカーがメリットデメリットを組み合わせて開発を進めているようです。
今回のroq hybridの導入により、コーニットと合わせて2つの方式のインクジェットが装備できたことになり、お互いにメリットデメリットを補完することができるようになりました。
この2つのメーカーだけみても戦略の違いが非常に面白いです。
インクジェットの使用するインクも、コーニットはCMYK+レッドとグリーン。roqはCMYK +オレンジとブルー。。。面白い!!
長くなってきてしまったので、色表現の戦略についてはまた次回。
長文お読みいただきありがとうございました。
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