私の本棚〜アンソニー・ボーデイン「キッチン・コンフィデンシャル」

アンソニー・ボーデイン著「キッチン・コンフィデンシャル」(2001年)

「これが俺のバイブルだ」

14、5年前。ホテルのバーで働いていた時代。上記のセリフとともに先輩から手渡されたのがこの本。

当時現役のニューヨーク出身の有名シェフ、アンソニー・ボーデインが自ら体験談を書いた短編集。

料理の才能だけでなく、オリジナル小説も執筆するほどの文才を持っており、実話ながら極めてエンターテイメントしている体験談。

幼少期の料理体験にほっこりしたかと思えば、学生時代にシェフを志した出来事が衝撃的。

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レストラン、飲食業界独特の慣習。料理の才能以外は社会に適合できない人々。@@@やXXXを$$$した話など刺激に満ちている。

先輩が「バイブル」と呼ぶのも頷ける。飲食を志す若者にとっては堪らない内容だろう。

(その先輩についてはこちらを参照「たちの10周年記念〜バー入門編」)

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残念ながら僕は元々飲食に根ざす気が全くなかったが、それでも、飲食業界独特の愛すべきイカした人々を理解する手助けをしてくれる重要な資料となった。

僕が好きなエピソードは、神がかり的に美味しいパンを焼けるが、その他は日常生活もままならないほど破綻しているアダムという男の話。

この話を読んだ時、パンク歌手で作家の町田康がなにかのエッセイに書いていた「本当に一緒にバンドをやりたいやつはスタジオにも出てくることができない」という一文を思い出した。

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チームで仕事をするという点では、今の自分が働いているTシャツプリント屋もレストランスタッフと似ていると言えるかもしれない。

営業がホールのサービススタッフで、我々工場の人間が料理人。料理(プリントしたTシャツ)が出るまでの時間がだいぶ違うが、工場長=シェフ、副工場長=スーシェフと言えなくもないのではないか。となると僕の担当のインクジェットはパティシエあたりが妥当な気がしてきた。

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このブログを書くにあたり、著者アンソニー・ボーデインを検索してみたら、アメリカでテレビ番組の司会もこなすほどの多彩な活躍をしていたそうだ。

が、なんと昨年2018年にフランスで死亡していたと。しかも自殺。。。

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飲食で働く人は精神的に不安定な人が多いのか。

僕が働いていたホテルでもレストランスタッフが何人も逃げ出した話を耳にした。

シェフという地位の人間でも突然いなくなったのだから、そうとう大変な職業なのだろう。

お客さんの入りや反応次第で状況や優先順位がコロコロ変わり、想定外も頻繁に起こり、それに対する即興性も求められる。

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飲食の魅力は、自分のやったサービスや料理の結果が短期間でわかることだ。

目の前で喜びや賞賛を得られるため、自分の力を実感できる。

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しかし、それと引き換えにしくじったときの反応は本当に堪え難い。

僕も当時何度かしくじったことがあり、しばらく引きずることになった。

人は食べ物に関することになるとこんなにも@@@@@。あわわわわ。

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ハマった時の喜びから、しくじった時の落胆。

この感情の急激なアップダウンと夜型の生活習慣も相まって、精神が疲弊していくのだろうか。。。

ましてやシェフともなればプレッシャーは並大抵ではないはずで、戦場のようなキッチンでは心が休まる暇などないのかもしれない。

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筆者はキッチンのスタッフは戦場の部隊と同じだと何度も書いている。

著者は始業時に、映画「地獄の黙示録」でおなじみのワルキューレの騎行を爆音で流しながら、フライパンに酒を注いで火柱をあげて、ジャングル(キッチン)の奥地を支配するカーツ大佐になりきっていたらしい。

僕もたまに気合を入れるときは、このワーグナーのワルキューレの騎行を爆音で流すことにしている。

違うところと言えば、独特な匂いの定着剤を噴射していることと、支配しようにも部下が1人もいないことである。

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