良い父親になりたい。
普段、私が帰宅する頃には子供は寝ていて、遊んであげることもできないので、休日くらいは何かしてあげたい。
家族の役に立つ男になりたい。
家事も育児も妻に任せっきりで、平日は全く私は戦力になっていないので、せめて私の休日くらいは、妻を育児ストレスから解放してあげたい。
良い夫でもありたいのだ。
本当は、良い父親を演じることによってモテたい。
独身女性からは、「私もあんな素敵な旦那さんが欲しい」という希望を抱かせ、
人妻からは「全てを捨てて不倫しても構わない」と禁じられた情意に身悶えさせ、
後期高齢者からは「もうめちゃくちゃにして」と遺産相続の遺言書を書き換えさせる。
そんな父親に、私はなりたい。
「そんな父親」の大志を抱いて、よく出かける場所がある。
国営 昭和記念公園だ。
元米軍基地の敷地は、箱根駅伝の予選会も行われるほど広大で、高低差も少なく、バリアフリーが行き届いていて、ベビーカーや車椅子でも巡りやすい。
入園料を取るだけあって、とても良く整備されている。四季折々の草花も楽しめ、特に春には沢山の花が咲き乱れ、それはそれは見事である。
良く整備されていながら、「@@禁止!!」「@@注意!!」などの看板があまり視界に入らず、ほとんど自由に歩き回ることができる。
子供にとっても大規模な遊具が多数あり、走り回り、飛び回り、叫び回って、笑いまくる。
訪れるたびに、遊び方が変化していて、子供の成長を垣間見れるのも楽しみのひとつだ。
———どうです?
目を細めて子供を眺める柔和な笑顔の父親。
こんな理想的な父親はモテるに決まっている。貴女方はもう私を放っては居られないはずだ。是非、貴女方の忌憚のない意見を拝聴させていただきたい。
生ビールである。
550円である。高いか安いかはあなた次第だが、美味いのは事実なのだ。
広大な敷地には売店・レストランが数件あり、そのほとんどで生ビールを売っている。素晴らしいことだ。税金を払っている甲斐がある。
小さい子供を電車に乗せて移動するのは大変な作業である。さらに、広い公園は移動するのも大変だ。
そんな過酷な環境にオアシスのように点在する生ビール。
売店がSuica対応のためタッチするだけで手に入る生ビール。
———中年のおじさんの希望といえば、休みの日くらい昼間からビールが飲みたいということだけだ。
そんなささやかな希望にも、休日の朝から子供は残酷にも寝ている私に飛び乗り、遊べ遊べと引っ張り、機関車トーマスのパーシー役をやれと言う———。
人類は共存共栄することを選択してこの地球上の覇者となった。
弱者を守り、知恵と力を合わせ、協力することで生き延びてきたのだ。
この地球でサバイブするためには、ワガママは許されない。
ビールを飲むことしか楽しみのないひ弱な中年の休日が、子供のワガママによって破壊されて良いはずがない。
「議論」というものは、相手の論点の矛盾を突いたり、お互いの主張をぶつけ合うことだけでは決してない。
よく「忌憚のない意見を聞かせて」と言う人がいるが、そういう人に限って自分の望んだ自分好みの意見しか認めないものだ。
未来ある子供たちには、そんな大人になってほしくない。
相手の意見を汲み取って、自分の意見との建設的な妥協点を模索して着地することを目指すのだ。
大切なのは、自分の意見が通ることではなく、たとえ自分の意見が100%通らなくとも、より良い社会にすることなのだ。
息子(3歳)よ。お前も1人の男として、社会システムの歯車として、建設的に妥協するのだ。
初恋は実らないし、偶然助けた老人が実は大金持ちで遺産をもらえることもないし、木の実を食べてゴム人間になることもないのだ。
————え?何?フワフワドームに行きたい?よしよし、行ってきなさい行ってきなさい。ほらほら、ちゃんと靴脱いで。走らない!走らない!順番守って!
———ふう。
もう一杯飲んじゃう。
【編集後記】
綺麗に整備された素晴らしい公園で、3歳児に妥協を迫る赤い顔した中年男にも、桜は満開で迎えてくれました。
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