村上龍 「走れ!タカハシ」(1989年)
好きすぎて、会社のロッカーに入れてあります。
だいぶボロボロになってますね。
ホテルのバーで働いていた時代に、先輩から
「お前は絶対村上龍だ。」
とニヤニヤしながら断定され、手渡されたのがこの本です。
先輩の見立ても当たっていて、僕もとてもこの本が気に入ってしまい、
古本屋の100円コーナーでみかけると、買って、あのときの先輩と同じように、誰かに渡したりしていた時期もありました。
短編集で、全てが口語の一人称で書かれているのでとても読みやすく、圧倒的な取材量と独自の体験に由来するヘビーな世界観と断定的な物言いの多い村上龍作品には珍しく、ライトで笑える1冊です。
ページ数も少ないので、数時間もかからずにさらっと読めてしまいます。
著者曰く、「ファーストベースにヘッドスライディングしてもそれが様になる日本でも珍しいプロ野球選手」
その昔広島カープにいたという東京出身でイケメン、でもみんなから愛される系の選手
タカハシヨシヒコが必ず登場します。
僕は野球の知識はほとんど無いですが、それでも楽しめます。
村上龍はスポーツにも詳しく、具体的な描写がその時代のプロ野球を知っている人ならもっともっと楽しめるらしいです。
「(ドラゴンズの)オオシマという伊豆みたいな男に───」
という記述があり、本当に伊豆半島のような顔らしく、昔からのプロ野球ファンはそこで爆笑するのだそうです。
短編集なので、物語のテイストも毎回ガラッと変わるのですが、すべての話のどこかに必ず、タカハシヨシヒコが登場し、
「走れ!タカハシ!」
というセリフが出てきます。
この話のどこに出てくるんだ?と言うような内容でも、鮮やかな構成で必ず登場して、
タカハシヨシヒコのプレーの結果が、その物語の住人の人生を左右します。
僕が一番好きな話は、関西人のテニス選手の話です。
センスだけでテニスをやってきた、女のことしか考えてない本能で生きているような落ち目のテニス選手が、付き合っている彼女の親に会わせられることになる。
彼女の親は宮崎の建設会社の社長(ほぼヤクザ)で、テニス選手に、引退して娘と結婚してテニスのコーチになれ、という。すでに大規模なテニスコートを建設中。
テニス選手はもっと女遊びがしたいので結婚などしたくない。
意を決して、これからは努力してプロテニスプレイヤーになるので結婚はできない、と伝えるが、社長からある賭けを提案される。
練習の息抜きに来ていた広島カープの選手がテニス選手のサーブをリターンできたら結婚、できなかったら結婚は無し。
テニス選手は ”サーブだけなら日本一” という自信があったので、軽々と賭けに乗るが…。
もちろんこの相手がタカハシヨシヒコ。
この勝負の描写が素晴らしく、タカハシヨシヒコの驚異的な身体能力が、文章というより脳内映像で記憶に残るくらいです。
今回数年ぶりに読みましたが、どの話も色褪せず抜群に面白いですね。