私の本棚〜アクシデント・レポート

今回は、つい先日読み終わった本を紹介させていただいきます。

最近、この本を読むのに夢中なっておりまして、ブログの更新が遅くなったのは、この本のせいです。

それほどの内容です。

樋口毅宏の新作小説「アクシデント・レポート」。

2段組で分厚いこの本、一言でいうなら、抜群に面白い。

二言でいうなら、分厚くて抜群に面白くて疲れる。あ、三語。

 

この本は、帯に「御巣鷹山〜」と書いてありますが、御巣鷹山の事故のノンフィクション物、ではなく、

もちろんフィクションで、1995年に起こったとする未曾有(みぞう)の飛行機事故の関係者の証言をまとめたレポート、という体の小説です。

そう、もちろんフィクションなんですが、それ以外はなんとも現実を彷彿とさせる内容なんです。政治問題、米軍基地問題、原発問題などなど…。

 

普通、小説では、著作者=創造主なので、その物語について神目線の解説があり、読者はそれを共有しながら(もしくは最終的に種明かしで共有されて)読み進みますが、この作品は、事故の証言を各関係者が一人語りで書かれています。

その為、各関係者のキャラクター達の「記憶に残っていること」しか書かれません。

神目線がないので、我々読者は、各キャラクターの証言を照合しながら自分で判断することになります。

 

登場するキャラクターをざっと羅列すると、事故現場に近かった病院の看護師、生存者でその事故をキッカケにアイドルになろうとする女の子、犠牲者の遺族、航空会社の社員で遺族担当者、遺族を団結させないように雇われた男、原発に変わるエネルギーを研究していた男、操縦士の妻、元刑事の探偵、天才子役、沖縄人、事故現場を中継したレポーター、記憶喪失の元公安警察の女….などなど。

 

あのキャラクターとこのキャラクターの言ってることが違う…。

このキャラクターは怪しいから、この証言は嘘…?

このキャラクターは記憶を捏造してる…?

一見無関係に思えるこの証言はもしかして…?

 

阪神淡路大震災、オウム事件、東日本大震災など、現実にあった事件事故も語られて、もう頭の中は混乱しながらも、興奮してページをめくる手が止まりません。

 

てっとり早く事件の真相を教えてくれ!

と叫びたくなりますが、果たして我々の棲む現実も、同じであることに気付きます。

 

現実世界でも、全てを見ていてそれを真実だと教えてくれる存在はいません。(「いる」と答えるスピリチュアルな方はそれでいいと思います)

それぞれが「おそらく正しいだろう」という予想の元に行動しているのではないでしょうか。

立場や見る角度、その時の精神状態、性格、経験、性別、時間などなど、いろんな要因によって、ひとつの事象でも記憶される内容は違ってきます。

また記憶というのも、正しく記憶しているとは限らないし、時間を経て変わってしまうこともあります…。

「真実って何だ!!!」と悩み過ぎると発狂してしまうので、「おそらく(自分としては)正しいだろう」と思うことに全力で生きるしかない。

 

「真実」は「ある」けど、全てを知ることは誰にもできない。

「記憶」は「真実」ではない。

 

柳沢健というノンフィクションライターは「1964年のジャイアント馬場」を書くときに、プロレスラーへの直接のインタビューは避け(プロレスラーは記憶違いが多いらしい)、当時の文献、雑誌や記事などを調べ尽くすことで、ジャイアント馬場と当時の事象を浮かび上がらせていました。

それと逆に、このアクシデント・レポートでは、各キャラクターの記憶から語られる内容の真偽が、読む者に委ねられるので、おそらく2回目を読むとまた違う解釈になりそうです。

 

唯一の難点は、著者の持ち味でもある、歌詞引用には辟易する。ということぐらいでしょうか。

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